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Vol.08

健やかな睡眠があってこそ十分な休養をとることができます。
現代生活はシフトワークや長時間通勤・受験勉強・インターネットやゲームをしての夜型生活などの睡眠習慣の問題や、睡眠障害の危険が多くあります。 睡眠不足による産業事故、慢性不眠によるうつ病や生活習慣病の悪化など、睡眠問題を放置すると日中の心身の調子にも支障をもたらします。
私たちは人生の3分の1を眠って過ごします。今回は身近な生活習慣である睡眠に目を向けてみましょう。


睡眠不足の原因

睡眠不足の大きな原因として、以下の2つが挙げられます。

1. 普段の睡眠時間が、最適な睡眠時間よりも短い。
2. 睡眠の質が悪い。

当たり前のことではありますが、日頃の睡眠時間が短く、睡眠の質が悪いことが睡眠不足の原因となっています。
また問題としては「睡眠習慣」と「睡眠障害」の2つに分けられます。
睡眠習慣」については、長時間の労働で睡眠時間が少ないことや、シフトワークなどによる体内時計の問題があります。
睡眠障害」については、睡眠時無呼吸と不眠症の問題が大きく上げられます。 質の悪い睡眠は生活習慣病の罹患リスクを高め、かつ症状を悪化させることが分かっています。

睡眠とは

私たちは毎日ほぼ同じ時刻に眠り、同じ時刻に目が覚めます。 このような規則正しい睡眠リズムは疲労による「睡眠欲求」と体内時計に指示された 「覚醒力」のバランスで作られます。 健やかな睡眠を維持するために、夜間にも自律神経やホルモンなどさまざまな生体機能が総動員されます。 睡眠にはサイクルがあり、夢を見る「レム睡眠」と大脳を休める「ノンレム睡眠」が約90分周期で変動し、朝の覚醒に向けて徐々に始動準備を整えます。

1. 睡眠欲求と覚醒力

ヒトの睡眠(眠気)は大きくふたつのシステムで作られています。

第一のシステムは覚醒中の疲労蓄積による睡眠欲求(青矢印)です。 睡眠欲求は目覚めている時間が長いほど強くなります。 徹夜などで長時間覚醒していると、普段寝つきにくい人でもすぐに入眠し、深い眠りが出現することが知られています。 いったん眠りに入ると睡眠欲求は急速に減少し、その人にとって十分な時間だけ眠ると睡眠欲求は消失して私たちは覚醒します。

第二のシステムは覚醒力(赤矢印)です。 覚醒力は体内時計から発信され、一日の決まった時刻に増大し、睡眠欲求に打ち勝ってヒトを目覚めさせます。 普段の就床時刻の数時間前に最も覚醒力が強くなり、その後メラトニンが分泌される頃(就床時刻の1-2時間前)に急速に覚醒力が低下します。 このため、私たちは夕食後にすっきり目覚めていても、就床時刻あたりで急に眠気を感じるようになります。 仮に覚醒力がなければ、徐々に強まる睡眠欲求のため日中の後半は眠気との戦いで質の高い社会生活は営めなくなるでしょう。 そして睡眠と覚醒を調節するために体内時計は生体機能を総動員します。

活動する日中には脳の温度を高く保ち、夜間は体から熱を逃がして脳を冷やします(熱放散)。 そのため就床前の眠気が強くなる時間帯は、脳が急速に冷える時間と一致しています。 同じころに体内時計ホルモンであるメラトニンが分泌を始め入眠を促します。
これら以外にもさまざまな生体機能が協調しあいながら質の高い眠りのために作用します。

朝方になると覚醒作用を持つ副腎皮質ホルモンの分泌が始まります。また、脳の温度が自然に高くなります。 このような準備状態が整って私たちは健やかな目覚めを迎えます。 メラトニンは睡眠を促進する作用を持ちますが、明るい光の下では分泌が停止します。
メラトニン分泌を妨げないように消灯をした暗い部屋で休むことは、睡眠をサポートする生理機能の力を最大限に引き出す上でも大事なことなのです。

2. レム睡眠とノンレム睡眠

先述しましたが、睡眠は眠りの深さによって、ノンレム睡眠とレム睡眠の2種類に分けられます。

レム睡眠は浅い眠りであり、体は休んでいますが、脳は起きている状態で、このときは夢を見たりちょっとした物音で起きたりすることがあります。 それに対して、ノンレム睡眠は深い眠りであり、脳が休んでいる状態で、生理機能も低下してくため、心身共に休息が得られます。 このノンレム睡眠(深い眠り)を長くとることが、熟眠感を得るために重要となります。 眠っている間は、このようなノンレム睡眠とレム睡眠が、1セット90分間隔で目覚めるまで繰り返されています。

3. 睡眠に関係するホルモン

〇メラトニン

メラトニンは、脳内の松果体において生合成されるホルモンです。 副交感神経を優位にして、覚醒から睡眠に切り替え、入眠をスムーズにします。 網膜から入った外界の光刺激は、体内時計(生物時計・視交叉上核)を経て松果体に達します。 明るい光によってメラトニンの分泌は抑制されるため、日中にはメラトニン分泌が低く、夜間に分泌量が十数倍に増加する明瞭な日内変動が生じます。 ただし、夜間でも明るい光にさらされていると分泌量が減ってしまいます。 安定した質の良い睡眠をとるためには、少なくとも就寝の1~2時間前には照明を少し暗くして、メラトニンがしっかりと分泌される環境をつくりましょう。

〇コルチゾール

コルチゾールは副腎皮質より分泌されるホルモンです。 血糖値や血圧を調整したり、胃酸の分泌を促したりする役割を持っています。 また過度のストレスを受けると分泌量が増加するため、ストレスホルモンと呼ばれることもあります。 就寝直後の深い睡眠時にコルチゾールの分泌が抑制されるため、質の高い睡眠をとることが大切です。 しかし、ヒトが朝起きる時に大きな役割を持っていて、起床前には多く分泌されます。 起床の3時間程前から分泌され始め、起床時には分泌量がピークを迎えています。 スムーズに起床するため(体が働きやすくするため)の下準備をしているのです。

〇成長ホルモン

成長ホルモンは脳の下垂体前葉より分泌されるホルモンで、子どもにとっては成長に欠かせないホルモンです。 また大人では、身体のさまざまな細胞の再生に不可欠なホルモンでもあります。 1日のうち1~3時間ごとに押し出されるように分泌されますが、就寝後すぐのもっとも深い睡眠時に一度に大量に分泌されます。 そのため、寝つきが悪かったり、ぐっすりと眠れなかったりする状況だと、成長ホルモンはうまく分泌されません。 逆に深い眠りをしっかりとつくることができれば、成長ホルモンは増えるということです。

睡眠障害

1. 不眠症

不眠症とは、下記に示す4つの睡眠問題が1ヶ月以上続き、日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調が出現する病気です。 不眠の原因はストレス、こころやからだの病気、薬の副作用などさまざまで、原因に応じた対処が必要です。

2. 日中の病的な眠気(過眠)

夜十分に睡眠をとっているはずなのに、昼間の眠気が強く、目覚めていられない状態を過眠といいます。 過眠があると、パソコンに向かって仕事をしているとき、会議で他の人の話を聞いているときなどに居眠りをしてしまいます。 入学試験や顧客との商談中など、通常では考えられない状況で居眠りをすることもあります。 居眠りや集中力の低下により、学業や仕事に支障がでるだけでなく、転落・転倒や交通事故の当事者となりやすくなり、特に居眠り運転では無関係な人に傷害を負わせてしまうことがあります。 職業運転手や大型機械オペレーターなどでは産業事故を引き起こすことがあります。

過眠を引き起こす病気はいくつかありますが、大きく分けて、

1.睡眠中の身体の症状のために深く眠ることができず、慢性の睡眠不足となってしまうもの
2.脳の中の睡眠を調節する機構がうまく働かず、日中に強い眠気が出現するもの

の2種類に分けられます。

〇睡眠時無呼吸症候群

1の代表的なものが睡眠時無呼吸症候群です。 この病気では眠り出すと呼吸が止まってしまい、身体が酸欠状態になるため睡眠が中断します。 しかし眠り出すと再び呼吸が止まってしまうため、深い睡眠をとることができなくなります。 このため慢性の睡眠不足の状態となり、昼間の眠気が出現します。 睡眠時無呼吸症候群では昼間の眠気が出現するだけでなく、夜間の長時間の酸欠状態により、高血圧が引き起こされたり、動脈硬化が進行して心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなったり、糖尿病が悪化したりと、生活習慣病が引き起こされます。 このため中等症以上の睡眠時無呼吸症候群を放置すると10年後には3~4割の方が死亡してしまうといわれており早期治療が大切です。

〇ナルコレプシー

2の代表的なものがナルコレプシーです。 ナルコレプシーでは夜十分な睡眠をとっていても、昼間に突然眠気に襲われ居眠りしてしまいます。 ナルコレプシーは目を覚まし続ける役割を持っているヒポクレチンあるいはオレキシンといわれるタンパク質を作り出すことができなくなることによって起こります。

睡眠不足の予防・対策

現代の日本では、多くの人が眠りに対して何らかの悩みを持っており、「5人に1人が睡眠に関する問題を抱えている」と言われています。 ひどい場合は病院や睡眠薬を頼る考えもありますが、まずはご自分の生活習慣の見直しで予防することができるかもしれません。 ここでの項目をチェックして睡眠の質をよくし、睡眠不足を解消していきましょう。

1. 就寝前の刺激を控えて就寝に備える

まず一番大切なことは、就寝前の刺激やストレスを避けて、リラックスした状態で就寝へ備えることです。就寝前の脳への刺激は交感神経が活性化されて、快適な入眠を阻害してしまいます。睡眠2~3時間前から、以下のような刺激やストレスを控えるようにしましょう。

睡眠を妨げる刺激やストレス
食事就寝の2~3時間前に済ませましょう
運動就寝前の激しい運動は控えましょう
入浴熱い温度を避け、就寝2~3時間前までに済ませましょう
カフェイン夕方以降は摂取を控えましょう
アルコール眠りの質が悪くなるので、深酒はやめましょう
ブルーライト就寝前パソコンやスマートフォンを見るのは控えましょう

2. 日中、適度な運動をする

快眠を阻害する要因として、ストレスがあります。 激しい運動や就寝直前の運動は逆効果になるので注意が必要ですが、日中の適度な運動(ヨガやストレッチやウォーキングなど)にはストレスの解消効果があります。 特にリズムのある運動(スクワット、階段の昇り降り、ウォーキング、ランニング等)を5分以上続ける事で、メラトニンの分泌を促すことができ、運動から適度の疲労感を得ることで睡眠の質もよくなり、健康増進にもつながります。 自分の年齢や生活に合わせて、無理なくできる範囲で運動習慣をつけることを心がけましょう。

3. 食事に気を付ける

睡眠ホルモンであるメラトニンは トリプトファンという必須アミノ酸が原料となります。 トリプトファンはたんぱく質に含まれる物質で、牛乳やチーズなどの乳製品、納豆などの豆類や白米などの穀類、肉類などの食品にも含まれています。 普段の食事にトリプトファンは豊富に含まれていますので、極端に意識することはありませんが、ダイエットなどでたんぱく質を制限したりせず、しっかり摂取してメラトニンを補うようにしましょう。

4. 寝具を考える

布団、枕、寝間着・パジャマなどには様々な快眠グッズがあります。 睡眠の悩みを抱える人であれば寝具選びには気を使っている人もいるかもしれません。 布団は通気性の良い物を選びましょう。 弾力性は好みがわかれるところですが、硬すぎず、柔らか過ぎないものを探しましょう。
枕は硬い・柔らかい、高い・低いなど調整が難しく、骨格や体格は人それぞれ違うので、自分で選びにくい時は寝具の専門店などで、プロにフィッティングしてもらうのもよいでしょう。 自分に合った枕を使用しないと気道が確保されず、いびきや睡眠時無呼吸症候群の原因にもなります。
寝間着やパジャマについては、人は寝ている間に汗をかくので、吸水性のあるものを選びましょう。

5. 音に気を付ける

人の耳や体は音や振動に非常に敏感です。 幹線道路沿いなど、交通量が多い場所、線路の近く、近所の生活音など、せっかく眠りについてもふとした音で目が覚めてしまうこともあると思います。 日常的な騒音の場合は、耳栓をして寝ることや、音を打ち消すために自分が好きな音楽(激しくないもの)をかけて寝るのも良いでしょう。

6. 長寝しない

平日を忙しく過ごすと、「週末はゆっくり昼間まで眠りたい」と思う方も多いと思います。 しかし長寝することで、平日よりも起きる時間が遅くなると、生活リズムが崩れてしまい、その結果「不眠症」になってしまうこともあるため、過度の長寝には注意し、起床時間は出来る限り規則正しく保ちましょう。
休日に平日より長めに睡眠を取る場合は、普段の睡眠時間+2時間程度までが良いと言われています。